事故例・失敗例

事故例・失敗例:事例6

事故例・失敗例>事例6 ベアリングの外輪のクリープによる事故

【定格】
1650kW巻線型誘導発電機
[    ]-4P-1650kW-1575rom-690V-50Hz-H種 外国製 2000年製造
【経過】
H13年12月
操業開始
H17年2月
運転中に大きな振動と異音を発生していることを発見
H17年4月
発電機を分解して事故原因調査 (某社)
H17年12月
弊社にて発電機を分解して事故原因調査。運転開始からの総発電運転時間は21713時間 (約3年)
【事故状況】
ロータ関係
シャフトの直結側ベアリング部で、写真1~2の様に内側及び外側油切りと相対する部分に接触痕がありました。その接触痕は、図1の様に直結側から見 てキー溝真上より左側約150゜の範囲に付いており、外側油切りと相対する部 分が最大深さ0.33mm、内側油切りと相対する部分が最大深さ0.1㎜でした。
ロータに曲がりがないかロータをダイナミックバランスマシンに乗せ、ジャーナル部で荷重を受け各部の振れを測定しました。測定結果シャフトの振れは5/100mm以下で異常ない事が分かりました。
鉄心、ロータコイルには、目視点検の結果特に異常はありませんでした。
ベアリング関係
ベアリングハウジングは内径面を点検したところ、直結側はベアリング外輪との嵌合部が凹状になって摩耗及びフレッティングコロージョンが発生していました。状況を写真3~4に示します。反直結側は異常ありませんでした。直結側及び反直結側の内径寸法測定結果を図2に示します。図2より直結側はベアリング外輪との嵌合部が大きく摩損していましたが、その両側面は異常ない事が分かりました。反直結側には異常はありませんでした。
図
直結側の摩損量の測定結果を図3に示します。摩損量の大きいところは直結側から見てから見て右下45°でその深さは0.245㎜であること事が分かりました。
注:摩耗量の測定はデプスゲージで測定しましたが、被測定物の接触面が円弧になっている為、図2の測定値より大きめの値になっています。
図3
油切り
直結側の外側油切りは写真5に示すように下側が変色していました。正常部分のシャフトとの直径隙間は0.54㎜ですが、摩耗部分の直径隙間は最大0.72㎜でした。
写真5
直結側の内側油切りは写真6に示すように下側が変色し一部写真7に示すように亀裂が発生していました。正常部分のシャフトとの直径隙間は0.60㎜ですが、摩耗部分の直径隙間は最大0.66㎜でした。
写真6~7
ベアリング
ベアリングの外径及び内径測定結果を図4に示します。これより直結側は外径が大きく基準寸法を外れている事が分かりました。
図4
ベアリングを洗い油にて洗浄後目視点検と手回しにて異音やガタツキがないか調査しましたが異常ありませんでした。
直結側ベアリングの内輪を固定して外輪の振れを測定しましたが最大0.04㎜で、これはベアリングのラジアル隙間と考えられ変形はないと判断しました。
直結側ベアリングの外輪表面はフレッティングコロージョンによる赤錆面と光沢面が混在していますが、光沢面は通常より光沢が強く明らかにクリープにより光沢が強くなったと判断されました。
その他
特に異常はありませんでした。
【分解調査結果からの考察】
以上の分解調査結果より、不適合のあった部分は直結側ベアリング周りに集約される 事が分かりました。
1.シャフトの接触面は全周に渡っているのが普通です。しかし、今回局部的であることから、油切りとの接触による局部過熱からシャフトが曲がり、鉄心部での不平衡磁気吸引力が重畳して動的偏心によるロータの振れ回りが発生したと考えます。従って、これが異常過大振動を発生させた一因と考えます。
2.外側及び内側油切りとシャフトとの接触は、油切りがベアリングハウジングとインローで確実に中心に固定される構造であること、4月の分解調査でも油切りの締め付けボルトが緩んでいたとの報告が無いこと、ベアリングハウジングの摩耗量の傾向と油切り変色位置が一致していること等から、二次的現象と判断します。
3.ベアリングハウジング内径面の摩耗は、ハウジング材質が軸受鋼より軟質のため、運転中の振動やベアリングのクリープ現象により叩かれスベリ摩耗した事が原因と考えます。
4.ベアリング外径寸法が基準寸法より大幅にマイナスしていました。ベアリングの振れ測定でも変形はありませんでした。また外輪表面はフレッティングコロージョンによる赤錆面と光沢面が混在していますが、摩耗しているようには見えません。従って製造当初より寸法の小さいベアリングが組み込まれたのではないかと考えられます。
【推定事故原因と推定事故経過】
以上の調査考察より、製造当初より基準値より外径寸法の小さいベアリングが組み込まれたため、ベアリングハウジングと外輪との隙間が大きいことにより運転開始当初よりクリープ現象が発生したと推定します。クリープ現象により徐々にベアリングハウジグの嵌合面が摩耗し、ベアリングハウジングと外輪との隙間が拡大し、そのためベアリング自身がハウジング内で大きく振動するようになりフレッティングコロージョンも重畳してベアリングハウジングの勘合面の摩耗が加速度的に進行したと考えます。ベアリングハウジングの摩耗の進行によりシャフトの位置が下がり、その結果油切とシャフトが接触そして局部過熱によりシャフトに曲がりが発生、鉄心での不平衡磁気吸引力も重畳して動的偏心によるロータの振れ回りにより過大振動や異音が発生したと推定します。
【まとめ】
一般にベアリングは品質管理が徹底された製品であると考えられ、回転機メーカではその度に寸法測定を行って異常の有無を確認してから実機に装着することはしていないと考えます。しかし、弊社の経験でも稀に基準値に入らない不良品に出くわすことがあり、特に原子力発電所で使われる回転電機の場合品質に万全を期す為全品寸法測定が行われています。そんな訳で本機の事故もたまたま寸法の小さいベアリングが装着されたことが事故原因ではないかと考えます。