事故例・失敗例

事故例・失敗例:事例5

事故例・失敗例>事例5 全含浸絶縁方式を採用した回転機での磁性楔脱落によるステータコイル接地事故

【定格】
1500/400kWカゴ型誘導発電機
[    ]-4/6P-1500/400kW-1518/1008rpm-690V-50Hz-F種 外国製 2001年製造
【経過】
2-1. H15年1月
操業開始
2-2. H15年12月
アラームが頻発して出るようになり、調査結果6P側コイルが接地している事が判明
2-3. H16年3月
弊社にて発電機を分解して事故原因調査
【事故状況】
3-1. 分解前調査
ⅰ.ステータコイル絶縁抵抗測定 (1000Vメガーにてコイル‐対地間を測定)
4P側は、各相とも2000MΩでした
6P側は、U相V相は2000MΩ、W相は0.8MΩでした。
ⅱ. H15年12月
4P側は、各相とも0.0110Ωでバランスしていました。
6P側は、U相が0.0560Ω、V相は0.0559Ωでしたが、W相は0.0550Ω で若干アンバランスしていました。
ⅲ. その他
外観点検しましたが各部とも異常はありませんでした。
3-2. 分解調査
ⅰ.ステータ関係
反直結側フレーム底部に、何らかの磨耗粉が散乱していました。 (写真1参照下さい)
直結側から見て右横のコイル楔が、2スロット分 (上コイルはW相のコイ ルが挿入されている) 消失及び脱落していました。 [1スロット当り2本の楔が挿入されていますが、直結側の楔が脱落していました](写真2参照下さい
その中の一つのスロットは、楔の全長が380mmのものが約50mmを残して消失していました。残っていた楔表面には磨耗痕がありました。(写真2~4参照下さい)
もう一つのスロットは直結側楔が全て消失していました。(写真2~4参照下さい)
楔の消失した部分のコイル絶縁には、図1に示すように打痕や外傷が発生し、一部銅線が露出していました。
図1
楔が消失していた部分の鉄心スロットには楔溝と歯部の片側 (反時計側) 角部に光沢がある部分があり、若干磨耗していました。(写真4~5参照下さい)
打音チェックの結果、楔全数の約20%に緩みが発生していました。
その他は異常ありませんでした。
ⅱ. ロータ関係
直結側鉄心表面に光沢の発生している部分がありました。(写真6参照下さい)
その他は異常ありませんでした。
ⅲ. 軸受、軸受ブラケット、その他
特に異常は有りませんでした。

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  • 写真1写真1
  • 写真2写真2
  • 写真3写真3
  • 写真4写真4
  • 写真5写真5
  • 写真6写真6
  • 写真7写真7
【事故原因調査】
4-1. ステータコイルの試験結果からの考察
4Pコイルには異常はありませんでしたが、6PコイルのW相に異常があることが分りました。しかも、巻線抵抗にて他相コイルより若干抵抗が低いことから、接地だけでなく一部ターン間が短絡していると推定されました。
4-2. 固定子枠内面の反直結側に堆積していた粉末状の異物について
分解調査結果よりステータコイル楔が脱落していた部分があり、それが磁性楔の為磁石に反応するか調査しました。その結果、磁石で吸引できることから楔の摩耗粉であることが分りました。
4-3. ロータ鉄心表面の光沢発生について
光沢の発生している範囲が楔の脱落していた範囲とほぼ一致していること、#71スロットに残存していた楔表面にロータ鉄心との接触で発生したと推定される筋状の摩耗痕があること等から、ロータ鉄心表面の光沢発生部分は楔脱落に伴う楔との接触痕と判断されます。
4-4. 楔脱落の楔溝に光沢や摩耗が発生していることについて
楔は磁性材料とガラス繊維等を合成レジンで固め成型したものと推定されます。従って、楔が固定されないと自体が電磁振動するようになります。楔溝の異常は楔溝内にて楔が振動したことにより発生したと判断されます。
4-5. 楔脱落部の鉄心歯部に光沢や摩耗が発生していることについて
上述の4-2~4-4.項の通り、楔の摩耗粉で鉄心歯部が叩かれ発生したものと判断されます。
4-6. #71スロットの残存楔片について
残存楔片は直結側鉄心端より約240mmの位置にありましたが、片端の形状から鉄心中央部にあった部分がその位置迄移動して来たものであることが分りました。又、もう片端はロータ鉄心と接触したことを示す円周方向の筋状の摩耗痕があり、しかも斜めに摩耗し楔溝に入る部分は消失していました。
4-7. 楔脱落していた部分の絶縁表面の打痕や外傷について
機内に楔の摩耗粉以内に異物が無かったことから、楔の破片がロータ鉄心との接触で動き回り絶縁表面に損傷を与えたものと推定されます。
4-8. コイル事故部の電気的位置について
事故部は口出しケーブルから3番目のコイルで、W相72スロット上コイルにあることが分りました。
4-9. 事故コイル辺の分解調査
事故コイル辺をコイルエンド部にて切断してスロットより取出して調査しました。銅線が露出している範囲はコイル側面にも拡がり、コイルはタテに4段の銅線で構成されていますがそれが2段目に達していました。楔と相対する面には半円形の打痕状の傷があり、それを起点に銅線が露出していました。  又、事故部を分解していない為詳細は分りませんが、銅線が溶損している部分は有りませんでした。 (写真7参照下さい)
【推定事故経過】
以上の調査より事故は楔の脱落部で発生していること、コイル絶縁には事故部にも外傷があること、事故部は口出しより3番目のコイルに発生し雷サージによるとは考えられないこと、事故部の銅線には溶けた様相がないこと等から、当該スロット楔に緩みが発生したことが引金になったと推定されます。従って、事故に至る経過は図2の通りと推定されます。
図2
【推定事故原因】
以上の様に楔に緩みが発生したことが事故の引金になったと判断されます。楔緩み点検で他のスロットにも緩みが発生していたことから、製造上の問題例えば乾燥過程で真空含浸したレジンの流出量が予め設定した値以上に多くなり、特に当該スロット楔周辺のレジン流出量が非常に多く、その結果楔の固定が出荷時より不完全だったことが事故原因と判断します。
【まとめ】
最近は磁性楔が装着された電動機が多くなりましたが、一旦楔が緩みだすと従来の合成樹脂製の楔に比較して緩みの進行が早い傾向があります。それは磁性楔が緩むと、コイルからの電磁振動を受けなくても楔自体が電磁振動してスロットと叩きあい磨耗するためと考えられます。メーカはそれなりに十分な対策を施していると考えますが本事例のような事がありますので、予防保全のため初回のオーバホールは早めに実施されることを推奨します。